夜の結晶

10時に ベッドに入れられて
11時の 柱時計を聞いて
12時の 鐘の音も聞いて
1時を 知らせる時計の音は
多分 もうすぐなんだけど

僕は 10時のころと変わりなく
はっきりと 起きている

いつもは うるさいくらいの川の音が
今日は 何故だかとても大人しい とか
近くを通る 高速道路は
今日は 閑散としているらしい とか
そんなおとをかすかに聞きつつも しっかりと 起きている

今夜は新月なので
月を眺めて暇をつぶすことは できそうにないし
手元の明かりもないので
本でも読もうかなんてのは 夢のまた夢

こんなに 静かで
何も 見えない夜に 呼吸をしているのは
きっと 僕と夜の2人きり

まるで 夜の結晶に
かためられたみたいに
僕は夜に 包み込まれて

朝になるまで
1つずつ増えていく 時計の音を
一緒に聞くんだ

2時 3時 4時
小鳥が起きて さえずり始め
夜の結晶は 次第にゆるくなる

5時の鐘が鳴れば
夜はほとんど溶けてしまって
欠片だけを部屋の隅に残し 去るだろう

それまで 僕は眠らないことにしよう
あんまり夜が可哀想だから
月もなく 音もなく 何もなく
ひとりぼっちで過ごすには
あんまり長すぎる時間だから

世界の全てが眠る夜
夜の結晶のなかに とりこまれて
感じたんだ
彼の退屈 彼の孤独を

だから せめて今夜だけ
せめて 僕くらい 一緒に朝を待ってもいいだろう?